ふたりのビーチボール

 いつの頃からだったろう?ヒロシは、風船やビーチボールにある特別な感情を抱くようになっていた。
 どんなきっかけがあったのか、なにが原因だったのか、幼少の頃の記憶をたどっても何も思い出せないのだが、とにかく彼は、街で風船を持った少女を見かけるだけでドキドキし、海でビーチボール遊びをする女の子を見ては興奮するのだった。

 クリスマスを目前に控えた日曜日、ヒロシがこんなに早い時間に帰ってきたのには訳がある。
彼は今日、たまたま行った100円ショップで、季節はずれのビーチボールが売っているのを見つけてしまったのだ。夏でもないのにそのような商品が置いてあるのが不思議だったし、また、たった100円という値段で立派なビーチボールが売られているのにも驚いた。
彼は迷わずショップにあった3つのビーチボールを握りしめ、買ってきてしまったのだ。

 部屋に戻ったヒロシは、早速買ってきたボールのひとつを膨らましてみた。
それは、60cmと書かれたピンクのボールだった。彼が一生懸命息を吹き込むと、見る見るうちにボールは大きく、綺麗な球形になった。透明ピンクのとても愛らしいビーチボール。ちょっぴり生地が薄くて柔らかい感じが100円ショップの商品らしかったけど。

 ヒロシはこのちょっぴりか弱そうなビーチボールに乗ってみたくなった。
実は、彼はそうすることがいっとう好きだったのだ。
無茶をすると壊れてしまいそうな可愛いビーチボール。そんなボールが彼の身体を支え、耐えてくれることに興奮するのだった。
ヒロシはそーっとピンクのボールに跨ってみた。
それは、彼が床に膝をついて跨るにはちょうどいい大きさだった。

 ヒロシは、大柄で良い体格をしていた。体重も80kg近くある。
そんな彼がピンクのビーチボールの上に腰を下ろすと、ボールは彼の尻の下でぎゅーっと潰れて変形した。それが部屋の大きな鏡に映って、彼もその様子を見ることが出来る。
彼は少しずつボールに身体を預け、全体重をかけた。
「大丈夫?重くないかい?」彼はボールにそう囁いた。
可哀相なくらい醜く潰れたピンクのビーチボール。しかしそれはまだしっかりと彼の全体重を支えていた。
ヒロシの尻の下から、パンパンに張りつめたボールの感触が伝わってくる。
彼はゆっくりと腰を前後に動かした。ボールがぎゅいっ、ぎゅいっと悲鳴をあげる。
今度はそっと上下に跳ねてみた。
ヒロシが尻をおろすたびにボールが大きく撓む。可哀相なピンクのビーチボールは今にも破裂しそうだった。

ヒロシは絶頂を迎えた。
ほんのしばらくの間、ボールに跨ったまま息を整えた。
彼はゆっくりとボールから降りた。
はじめは醜く変形していたピンクのビーチボールは、彼の重みから解放されるとゆっくりゆっくり、元の形に戻っていった。

ヒロシは水を1杯飲んで、彼を慰めてくれたピンクのビーチボールを手に取った。
ボールは破裂こそしなかったものの、彼の重みでビニールが伸び、しわしわになって柔らかくなってしまっていた。
彼はもう一度このボールにやさしく息を吹き込んだ。
ピンクのビーチボールは、初めよりももっと大きく、もっとパンパンになった。
大きくて愛らしい、ピンクのビーチボール。彼は愛しいボールを抱きしめた。と、そのときである。

「バタン!」
「こんちわ〜」

いきなりドアが開いた。
やってきたのは、ガールフレンドのユキであった。
彼はあわててボールを部屋の隅に転がした。

 ヒロシは、ユキとつき合うようになってからそろそろ1年である。
しかし、まだこの自分の趣向についてはユキに話していなかった。
変な癖だと嫌われるのが怖かったからだ。
ユキは部屋に転がっているピンクのビーチボールに気がついた。

「なにこれ〜」
「夏でもないのに海行くのぉ?」

ユキはそう言って笑った。
そしてボールを手に取ると、ポンポンとついてバレーの真似事をしたり、
「ほらいくよ〜」ってサッカー遊びをしたりした。
ユキがヒロシに聞いた。

「ねぇ〜、このボール、いったい何に使うの?」
「ねぇ、ねぇ、ねぇってばぁ〜」

ヒロシは困った。
でもユキはそれ以上しつこくは聞かなかった。

「でもこのボール、とっても可愛いね」

そう言ったユキは、ボールにもたれかかるように抱きしめた。
ヒロシはちょっと意地悪をしてみたくなった。

「ユキ、そのボールにちょっと座ってごらん」
「え〜、なんで〜、私なんか乗ったら割れちゃうよ。かわいそうじゃ〜ん」

ユキも決して小柄な方ではない。身長165cm、お尻も大きいし、体重もきっと50kg以上はあるだろう。そんなことは怖くて聞いたことはないけれど。
ヒロシはボールに乗るマネをして見せた。

「ほら、ちょっとなら大丈夫だよ。気持ちいいからやってごらん」
「え〜っ、割れても知らないから!」

ユキはそう言って、椅子に座るようにこわごわとボールに腰を下ろした。
さっきよりパンパンに膨らんだボールが、ユキの大きなお尻の下で少し潰れた。

「そうじゃなくて、ほら、お馬さんに乗るようにまたがってみて!」

ヒロシはユキに言ってみた。
ユキは言われるままにピンクのビーチボールに跨った。
ボールが撓み、ぎゅぅーっと音を立てる。

「割れない?」

ユキが聞いてくる。

「大丈夫、大丈夫!」

そうヒロシが言うと、ユキはボールに手をついて少しお尻を上下させた。
ボールがぎゅっ、ぎゅっと撓む。

「すごいね!私て結構軽いんだぁ」
「なんか...ちょっと気持ちいいね...」

少し、ユキの瞳が潤んできたような気がした。
ユキとユキのお尻の下で撓むビーチボールに、ヒロシはドキドキした。

「ねえユキ、ちょっとボール貸して」
「...いいけど」

ヒロシは、ユキからボールを取り上げると、自分がそのボールに跨った。

「わぁっ、ヒロシが乗っても平気なの?」
「ユキもおいで」
「ふたり乗り?」

ユキはちょっぴり不安そうな顔で、ヒロシと一緒にボールに跨った。
体格の良いふたりを乗せたボールは、大きくつぶれて今にも割れそうになった。

「大丈夫かなぁ...」

ユキがつぶやいた。
ふたりはボールに跨ってしばらく一緒に揺れた。
ユキは、ヒロシの方に向き直ると、ボールの上で足を広げてヒロシに抱っこした。
ふたりはひとつになった。
ヒロシとユキ、ふたりの全体重130kgがピンクのビーチボールにかかった。
ボールは、再び大きく潰された。しかし、信じられないことに、まだ割れずにふたりの体重を支えていた。

ユキは腰を上下し始めた。
ボールの弾力を使って、だんだん激しく、激しく。
ふたりの動きにあわせてボールが醜くゆがみ、ぎゅいっ、ぎゅいっと悲鳴を上げる。
抱き合うふたりと、潰れるビーチボールが部屋の鏡に映って見えた。それがふたりを一層興奮させた。

「ばふっ」

ふたりの体重に耐えきれなくなったボールは、ついに大きな音を立てて裂けてしまった。
同時に、ヒロシとユキは絶頂を迎えた。

ふたりはそのまましばらく抱き合っていた。
お尻の下には、さっきまでふたりを優しく支えてくれたピンクのビーチボールが1枚のビニール布となって横たわっていた。
ユキが口を開いた。

「割れちゃった...」
「ちょっと2人じゃ重すぎたかな?」
「だって、乗り物じゃないでしょう」

「でもまた遊びたいな」
「うん...」