公園の駐車場に車を停め、畳んでおいた車椅子を下ろして広げる。
助手席から会美を抱きかかえて下ろし、車椅子に座らせた。

「ちょっと寒いな。」

オレは車からフリースのブランケットを取り出すと、会美に掛けてやった。

「これで大丈夫。」

この街にはめずらしく雪がさっきから降り続いている。
あの時からもう1年以上になる、オレは生まれた街に戻り、会美と2人っきりで暮らしている。
辺りには隣のマーケットから流れたカップル達が幸せそうに寄り添いながら歩いている。

「そうだな、もうクリスマスイブだもんな、会美。」

車椅子を押しながらオレはずっと一人で喋っている、そう、会美はまだあの時のまま…
最初の内はあのたった5日間を懐かしんで悲しくもなったが、だいぶ慣れた、もうこのままでもいいかと思い始めている。
どんな所に連れて行っても回復はしなかった、その道の専門家達は一様に首をひねるだけだった、なにせ
"食事を口元まで運べばちゃんと咀嚼するし、飲み込む事だってする、立たせておけば横から押してもバランスを保ってちゃんと立ってられる、走らそうと思えば、手を引っ張ってやればちゃんと走る、ただ立たせたら何時間でもそのまま、走らせたらずっと走り続ける…"のだ。
本当に意思と心が無いだけだったからだ。
でももういい、胸に耳を当てればちゃんと心臓は動いているし手を握ればちゃんと暖かい。
ここに彼女は存在しているのだ。

気が付くと彼女の肩に雪が積もっていた。

「ああ、ゴメン、さあ、もう帰ろうか。」

オレは雪を手で払い、車のほうへ向った、途中見かけるカップル達が "MerryX'mas!!"とプリントしてある風船を手に持って歩いているのに気が付いた、くだんのマーケットで配っているのだろう。

"風船か、そういやまだいっぱい有ったよな"

そう、あの時、会美がいっぱい買って来た風船だ…。

「すっかり風船の事なんか忘れてたよ、よし今日はケーキ買って、
シャンパン買って、君の風船をいっぱい飾ってパーティでもしよう。」

会美がかすかに微笑んだように思えた。

「さあ、行こう。」

オレ達は車に乗り公園を後にした、雪はまだ降り続いていた。

おしまい

 

 

後書きのようなもの

如何でしたでしょうか、かなりメチャクチャな話でしたけど、ごく少数の(2人ほど・笑)のかたのご希望により全文掲載させて頂きました。
話はとっくにできあがっていたのですが、非常に打つのが遅いのと、苦手な濡れ場(笑)の表現にてこずってここまで時間が掛かってしまいました。
まったく濡れ場ってのは難しい物で御座います。
えー、で、話しの流れですが、まったくの思いつきで書かせて頂いておりますので、設定に無理があったりしています、特に無線関係の話など私にはまったく知識は有りませんし、傷害で入った人間がいかに前が無いといってそんなに簡単に出てこられるものか、主人公である会美の"心をシャットダウンした状態"ってのもまったくでっち上げです。
数少ないちゃんとした記述は、探偵が尾行したり張り込みしたりする際に缶コーヒーを飲んだりするときには必ずストローを使う、つまり視線をマークしたものから外さないって事、全ての探偵がこんな事してるのかどうか知りませんが、私の知り合い(元探偵、その探偵社か興信所の社長はなんと金目教の教祖様だったそうです・笑、役者を辞めてかどうかは分かりませんが)から聞いた話です。
それと、デーヴ・なんたらがCIAのイリーガルって事くらいでしょうか?(笑)

ではでは、最後までお付き合い下さいまして有り難う御座いました。

パン風

でも若い人の中には"工藤ちゃん"知らない人がいるんですね、ちょっとショック(笑)