空飛ぶピンク・ローター

夜風BB

「もう!何で私がこれ引き取んなきゃならないのよ!」

外は大雨。けたたましい雨音と共に、時折雷鳴も聞こえてくる。

そんな中、私はふてくされて、家のベッドに仰向けになって寝ていた。

これ、というのは、その視線の先にあるもの。

一人暮らしのアパートには不似合いな、天井を彩るカラフル・バルーン。

それも色とりどり。赤、青、黄色、緑、白、紫、ピンク…かれこれ10個以上。 蛍光灯の光が当って、ピカピカと艶を放っている。

本当だったらこの風船たち、今頃大空高く飛んでいるところだった。

事の次第はこう。あるイベントでバルーン・リリースをするというので、私も含めて駆り出され、 ヘリウムガスで風船を膨らませていたのだった。

ところが、10個以上膨らませたところで天気が急変。たちまち大雨に。

イベントは急遽中止。撤収するというので、トラックに乗せられ家まで送ってもらったのはいいけど、 風船全部引き取って、だって。結局断れずに、今、私の家の天井にあるというわけ。

心配なのは、家に入る時、近所の人に見られなかったかしら、ということ。 こんなに沢山の風船持って入るところなんか見られたら、あの人なんだろう?と思われるに違いない。 それでなくても、この歳になって女の一人暮らしで、変な目で見られているというのに…。

「ま、いいか。今日仕事もなくなっちゃったし…」

風船から垂れ下がる糸の束を、しばらくぼんやりと眺めていた。

「あれ、やろっかな…」

あれ、というのは、私の寂しさを紛らわす唯一の友。実はいつもバッグの中に忍ばせてあるけど、 秘密中の秘密。早速バッグの中に手を突っ込むと、あったあった。

「ジャーン!ピンク・ローター」

なーんて、口に出して言えるわけがない。一見するとルージュのように見えるミニ・ローター。 以前はリモコン付きのものを使っていたけど、いかにもローターって形がいやだったので、 今はリモコンが付いていない、ボタン電池式のものを愛用中。

いつものように、服を脱いで、早速使おうとスイッチを入れようとしたところ、ふと、変なことを思いついた。

「ひょっとして、これにつけたら浮かぶかも…」

これ、とは、もちろん風船たちのこと。私は糸の束を手繰り寄せ、ローターの胴に巻きつけて結び付け、 さらにセロテープで止めた。

「これでよし!スイッチ、オン!」

私はスイッチを入れた。ウイーンと小気味よい音を上げる。

ローターの先っぽが下になるようにして手に持つ。風船の糸が一斉にピンと張った。これで準備完了。

「さぁ行くよ!」

ワクワクしながら、私はそっと手を離した。

(ふわーーーー)

「わーっ!」

浮いた浮いた!ウイーンとうなるローターを吊り下げながら、風船がゆっくりと浮かんで行った。 ローターの振動が、ピンと張った糸を伝って風船をも振動させているよう。風船は天井目がけて浮かび続けた。

「ウソーッ!ローター飛んでっちゃったよー」

つくづく家の中で良かったと思った。こんなものがもし外に飛んでったら、一体誰が飛ばしたんだろうと…。

しばらく天井を仰ぎ見る。風船は天井に一旦当たると、天井に着くかつかないかのところで静止した。

それにしても、ウンウン唸っているローターを吊り下げて浮かんでいる姿がおかしくてたまらない。

「お願い!降りてきて!」

と思っていたら、どうやら願いが通じたのか、だんだんと下がってきた。 でも、パラシュートみたいにスーッと降りてくるんじゃなく、じらすようにゆっくりと。

時折、部屋の中のわずかな横風に乗って横移動も。このふわふわ感がもうメルヘンチック!ローターさえ付いていなければ…。

(ウイーーーーーン)

電源の入ったローターが空中に浮かんでいるなんて、何て不思議な光景…。

さて、どこに下りてくるんだろう。もちろん、最初は“ここ”になってほしいに決まっている。

でも、残念ながら“着陸地点”はベッドの外になるようだった。

「フフフ。そっちじゃないのよ」

仰向けに寝た私は手を伸ばし、1個の風船を指でチョイッと上へ向けて突いた。

途端に風船がフワーッと勢いよく上がっていった。ちょっと触った程度のはずなのに、スーッと上がると、 天井にボワンと当り、今度はブルンブルンと大きく揺れながら降りてきた。

(ウニョンウニョンウニョン…)

ローターが円を描くように回転している。

今度の“着陸地点”は………また残念。このまま行くとどうやら私の顔の上のよう。

私は今度は風船目がけて軽〜くフーッと息を吹きかけた。大揺れのおさまった風船が再び天井へ。

「フフフ。楽しい!」

思わず笑みがこぼれる。でも、どうやら“ここ”は「もういい加減にしてよ!」とお怒りのご様子。

また降りてきた風船。今度はちゃんと“着陸地点”が“ここ”になるよう、手が届くところまで風船が降りてきたら指でそっと触って“軌道修正”。

でもこれが難しい。何度か外してリトライしているうちに、とうとう“スイートスポット”真上にローターが降りてきた。

あともう少し!あとちょっと!このじらし感がもうたまらない!

「早く早く!」

もうすぐ“ここ”に触れそう。そう、乳首の先っぽに。

とうとう触れるか触れないか、のところまで来た。こんな微妙な位置で止まるなんて! あぁもうあとほんのちょっとで、快感が待っているというのに………でも、実はここが一番気持ち良かったりして。

そして…

(ビビッ!)

「あっ!」

一瞬触れた!でもその時、体が思わずピクッと動いてしまい、それに押されて風船がまた浮かび上がってしまった。

「あ〜ん、今いいところだったのに〜…」

もう悔しい!今度こそ。

再び乳首の真上にローターが。今度は息を殺して動かないようにしなくちゃ。

(ウイーーーーーン)

ローターの先っぽが乳首の先っぽに近づく。再び触れるか触れないかのじらしゾーンに。 もうあとほんの数ミリ………。

すると、「早く触れたい!」との乳首の願いか、乳首がみるみる勃起してきた。

そしてついに、立ち上がってきた乳首の先っぽが、ローターの先っぽに届いた!

(ビビビビビビッ)

「あ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜」

もう最高!乳首とローターの先っぽ同士。しばらく触れた後、わずかに風船が浮かんで離れ、また乳首に触れる。この繰り返し。まるで乳首の勃起力に押されて風船が浮かび上がるよう。

そしてローターの先が乳首に触れるたび、しびれるような振動!この触れたり触れなかったりするのがもう最高!   こんなの初めて!今までただ単にローターを乳首に押し付けていたのは何なんだろうと思うくらいの快感!

そう、何と言ってもこの微妙な力加減。

以前、リモコン式のやつでローターをコードでブラブラ吊り下げながら乳首に触れさせるといった似たようなことをやったけど、それとは全然違う。ローターの先が微妙に離れたり触れたりして………もうこれって、人間にはできない。ヘリウム風船にしか出せない感覚!まさかこんなテクがあったなんて…。

もううっとり。大の字になった体に、突きだした乳首。その乳首の先っぽに、ローターが直立して立っている。風船たちに引っ張られながら…。

私はもうすっかりこの快感の虜になってしまった。あぁ風船が運んできてくれた私の幸せ!このままずっと続いて!

でも、私は“次”があることを知っていた。それは、乳首以上の快感が待っている場所。それが次の“着陸地点”。

もう、おわかりでしょう。そう、あの“丘”の上です。

私は風船にちょっと強めにフーッと息を吹きかけた。

(ふわーーーー)

風船が浮かび上がり、次の“目的地”へ向けて出発!さらなる快感を求めて…。

風船は私の下半身の方へ。乳首の時に“軌道修正”のやり方にも慣れたので、今度は割とすんなりと、狙った“着陸地点”へ。

ローターは今、あの“丘”の上空。徐々に降りてゆく。

「触れて!早く触れて!」

一心に念じると、願いも通じる。そう、あともう少し!そこ………

(ビビビビビビ………)

「あ〜〜〜〜〜〜〜ん………あっあっ、あああああああああ………」

もう声が出なかった。ローターが“丘”の上に直立して容赦なく攻める。その上には、蛍光灯の灯りを反射してピカピカと艶を出す色とりどりの風船たち。

そう。紛れもなくその風船たちに、今まさに私の体は犯されているのだった。

(ビビビビ………ビビ………ビビビビビ………)

「ダメ〜〜〜〜〜〜もう風船、気持ちいい〜〜〜〜〜〜」

ローターが付いたり離れたり。いつもはただ押し当てているだけなのに、こんな攻め方、人間にはできない。

気が付くと、ほとばしる愛液でもうビショビショに。

「もう我慢できない!」

ここまで来たらもうここしかない。私は“丘”のすぐ下にある“谷間”を両手で押し広げた。

「お願い!ここに入って!」

風船に念じた。果たして通じるか…。

その時だった。ローターに風船の糸を貼りつけていたセロテープが、ペロンと剥がれたのだ。

「あっ!」

たちまち風船の糸が解き放たれ、風船がまるで逃げるようにして天井へ。

「ダメーッ!待ってー!」

思わず手を伸ばそうとしたけど、もう届きそうにない。

(ボボボボンッ!ポンポンポンポポポポポポ………)

大量の風船が天井に当たる。

「あーん!私も連れてってほしかったのにー!」

と思った瞬間だった。“奇跡”が起こった。

(スルンッ!)

すっかり愛液で濡れたローターが、“谷間”に吸い込まれたのだった!

(グニョングニョングニョン………)

「いやーーーーーーーーーーーー!」

“穴”の中でのたうちまわるローター!このまま私も行っちゃう!行っちゃう!あっあっあっ………

「ああああああああギャーーーーーーーーーーーーッ!」

(ドプシュッ!)

 ……………………  ……………………  ……………………

 ……………………  ……………………

 ……………………

気が付くと、外はもう雨がやんで、日が差しているようだった。

「ここは………天国?」

視界に入って来たのは風船たち。そう、風船が私を“天国”にまで運んできてくれたのだ。

ローターは何も知らずにまだ振動しているが、もう何も感じなかった。

私は風船の糸の束を掴んで手繰り寄せた。目の前にきた風船がゆらゆらと揺れる。

「ウフフ。幸せ。」

そう言って風船にキッス。よかった。この風船たちを引き取って。