Micro NEMESIS 製作記

2005年3月23日スタート!
飛行に成功! 4月17日追記


「まえがき」

最近われわれの間で盛り上がっているのが、西三河フライングクラブ(NMFC)で行なわれている「ちびプレーン・レース」翼長600mm足らずの電動機で、40m間隔のポールを回るミニパイロンレースです。
春の大会まであと3週間に迫ったある日、ある人からこの機体の情報がもたらされました。

翼長450mm、重量150g、Graupner250モーター用の発泡一体成型のマイクロネメシス。まるでこのレースに参戦するためにあるような機体です。ドイツ生まれのこのキットは米国のディーラーを経由して3機が日本に上陸しました。大会のちょうど1週間前のことです。
さあ、Debut to Win を目指して時間との戦いが始まりました。


「この飛行機って何?」

・・・ 実機 「NEMESIS」について ・・・

ネメシスほどリノ・エアレースのF−1クラスで有名なレーサーはないでしょう。
1991年、パイロットであり、設計者でもある Jon Sharp 氏のネメシスは鮮烈なる Debut to Win を飾り、その後1999年にリタイヤするまでに9回のリノ・ゴールドレースを含む45のレースに優勝、16の世界記録を樹立して、最も成功したエアレーサーと言われています。

ネメシスはF−1クラスレーサー初のフル・コンピューター・デザイン、フルカーボン・コンポジットのモノコック構造を持ち、サイドスティック・コントロールとデータ収集装置を搭載したハイテク機です。
ネメシスの胴体がちょっと腹ボテなのは、パイロット Jon Sharp 氏が体重100kgを超える巨漢だからとか・・・・

同機はリタイヤ後、ワシントン・ダレス国際空港にある、Museum’s Steven F. Udvar-Hazy Center に展示されています。


「キットを見る」

届いた箱は宅配ピザのような約50cm角の正方形でした。開けると、およそラジコン機らしからぬ発泡スチロールの成型品がポロッと4つほど。拍子抜けするほど箱の中はがらがらです。
胴体+主翼+水平尾翼は一体成型。あとはトップデッキ、垂直尾翼、スパッツの部品、そして申し訳ほどのリンケージパーツ。

今回は本機に合うサイズのプロペラ(Graupner CUM4X3)とスピンナーも同時に購入しました。


「パワーユニットを決める」

このキットに指定の Graunper SPEED250 というモーターはなかなか手に入らないようです。
そこでこの際、パワーアップを狙ってブラシレスモーターを検討しました。

ちびプレーン・レースではCD−ROM改造モーターがよく使われておりますが、本機の機首は細くて搭載できそうにありません。
純正に近いサイズのモーターをいくつか選択し、実際に回してテスト。結果、ホクセイモデルの2L208 MK2 3600 を選択しました。スリム2セル700mAH、グラウプナー4×3で初期7A、1分経過で6.6A、回転数18000RPMです。飛びそう?

その他は、アンプに Tamazo 1210、受信機は先日オーバーホールしたばかりの JR R500 に決定! サーボは安さ一番で GWS PICO-STD が2つです。

「主翼の補強」

まず、発泡スチロールのバリを落として成型します。
表面には細かいブツブツが残っていますのでこれもサンドペーパーで削り落としました。材質は目が細かく粘りもありそうですが、翼を持って曲げてみるとぐにゃぐにゃです。ここはレーサーとして強烈なGに耐えてもらわなくてはいけませんから補強を入れることにしました。

主翼の上下、ちょうど最大翼厚付近に薄いカーボンのテープを貼ります。これだけで捩れ、曲がりに対しかなり抵抗力が増加します。
ここで、接着剤は一般的なCAが使えることがわかり製作は一気にスピードアップしました。

「冷却に対する配慮」

ハイパワーのブラシレスモーター、リポの搭載で胴体内の過熱が予想されます。純正でも小さな空気穴は空いていますが若干不安です。そこで実機のエンジン・シリンダー冷却穴、ラジエーター冷却穴を開口しモーターとリポ周りに空気が流れるようにしました。胴体下部には大きな排気穴を開け、胴体内に熱気が溜まらないようにします。排気穴には画用紙でルーバー風のフィンをつけてみました。

「モーター、RCメカの搭載」

純正よりも若干重いモーター、ブラシレス用のアンプやリポも指定よりかなり大型で搭載可能性が心配されましたが、意外とすんなり収まりました。ただ、重心を合わせるためにサーボと受信機は限界まで後方に搭載する必要がありました。何とか重りなしでいけそうです。

「リンケージ」

エルロンとエレベーターのリンケージを行ないます。
本機の舵面にはなんと!ヒンジがありません。スチロールの表面、皮一枚を残してヒンジ代わりになるように成型されています。ちょっと不安ですが、意外と粘りがあり割れてきそうにないのでそのまま使うことにしました。痛んでくるようならヒンジテープを貼りなおせばいいでしょう。
エルロンホーンはアルミパイプでホーンを作り、ロッドとの接続部は収縮チューブを使うという面白いやりかたです。なんとなくいい加減なようですが、このような超小型機ではガタが出ずに還って良いかも。これもこのまま採用!
エレベーターはごく普通の方式でリンケージします。

「塗装」

本機の材質は高密度の発泡スチロールです。比較的表面は滑らかですが、主翼補強用のカーボンテープを隠し、製作中の細かい擦り傷や手垢汚れを消すために塗装仕上げが必須です。

まず水性塗料の白を軽く1回、ここでサンディングあとの毛羽立ちが浮き出てきますのでこれをすり落とします。あと、晴れた日の昼間を狙って(会社をサボって:笑)全体の艶が均一になるように塗り重ねていきました。

「デカル貼付前」

写真では分かりませんが、表面が結構ブツブツになってしまいました。
水性アクリル塗料を使いましたが、どうやらこれでも若干スチロールが溶けるようです。丸1日乾燥後は却って発泡のツブが目立ってしまいました。水性パテを全体に塗っておけばよかったと思いましたが後の祭りです。

デカル貼付前にまず舵角調整、取説にははっきりとした舵角指定がありませんでしたので、
エルロン 上2mm、下1.5mm、 エレベーター 上下2mm
各チャンネルのATVでこのぐらいに調節しました。

 

「完成!」

デカルを貼り終えたところです。
いろいろ実機写真を確認しましたが、写真を撮られたその時期でスポンサーのマークはかなり異なっていることが分かりました。また、引退直前にはさすがに多くのスポンサーがつき、派手なカラーリングとなっています。
付属のデカルは割と控えめなものしか有りませんでしたので、車レース用のデカルを流用してそれらしく仕上げてみました。

「幻の初飛行」

3月26日、Viper佐藤氏に同行願って試験飛行に出かけました。

飛行前の記念写真。かなり大柄な機体に見えますが実は・・・・
(写真をクリック)

このあと「あるトラブル」で飛行不可能になってしまいました。
それは・・・・

隠していてもしょうがないので書きましょう。
某氏のネメシスが手投げ後のオーバーコントロールで落ちたという話を聞き、それならば滑走離陸の方が安全だろうと思ったのが間違いでした。硬いアスファルトの上でモーターON、そのとたんに機体はちょっと前のめりとなりプロペラが地面を叩いてものの見事に飛び散ってしまいました。機体は浮き上がるどころか1mも滑走していません。予備のプロペラがないので初飛行はお預けとなってしまいました。

「初飛行〜調整」

明けて飛行会当日、製作が間に合わなかった友人よりプロペラを借りてブッツケ本番の初飛行に挑みます。今度は手投げでチャレンジ。強大なパワーに振り回されないように、スロットルは約2/3でスタートです。ところが・・・・助手の手を離れたネメシスはあっという間に左ロール、コントロールする暇もなく頭から地面に突っ込んで小破してしまいました。もちろん、借り物のプロペラも・・・・ 症状はいかにもトルク負けのようですが、機体にも問題があるかもしれません。よって以下の点を点検、修正しました。

1、主翼の捩れ

ごく僅かですが、左翼が捻り下げになっているようです。(右翼はフラット)これは左ロールの傾向と合致するので修正が必要です。僅かの捻り下げは翼端失速の防止に効果がありますので、フラットな右翼の方を捻って左に合わせることにします。 

2、垂直尾翼

まず、真っ直ぐに付いていることを確認。
トルクの影響を軽減するために、少し右にオフセットしてやることにしました。ラダー(相当)部分に折り目を入れ、約2度右に切りました。

3、プロペラ

標準品、グラウプナー4×3は衝撃に弱くすぐに破損してしまいます。日本で簡単に手に入るサイズではなく、個人の少量輸入では高価なものについてしまいます。
他の相当品として、APCの4.1×4.1というものを見つけ、これを試してみることにしました。
グラウプナーよりも少しピッチが深いのでデータを測りなおしました。

・地上で初期8.4A、1分経過後7.7A

ちょっと流れすぎでしょうか? スロットルカーブでちょっと押さえた方がよいかもしれません。

このプロペラはグラウプナーに比べてかなりごつく、強度もありそうです。
しかし、写真のようにハブが厚く、スピンナーの切り欠きと合いません。
このプロペラが使えそうな見込みがついたら、スピンナーを加工することにしましょう。

さて、これで次回の飛行にチャレンジです!

 

「再挑戦!」

再飛行テストは4月3日土曜日に行いました。

ペラをAPCに替えましたのでフライト前に回転を計りました。
APC 4.1×4.1 フルハイで16500rpm、8.5A。これではいかにもトルク負けしそうなので、14000rpm、4.8A まで絞ります。
舵のセッティングは、エルロン 上2mm 下1.5mm EXP30%、エレベーター 上下2mm EXP30% です。

自分で手投げ、左に傾きますが修正可能でした。
ちょっと敏感ですが操縦可能です。ところが、エレベーターがいけません。効き過ぎるのか、ノイズが入ってピクついたのか、藪の中へ急降下。何とか立て直して飛行場内へ戻してきました。
ここでパワーを更に絞ったところかなり大人しくなりそのままランディング・・・が、

左翼を草に引っかけ根本からばっさり折れてしまいました。

飛行時間8秒(見ていた皆さんの計測?)これは飛んだと言えるのか??
そうそう、丈夫なAPCペラは機体がまっぷたつになっても折れていません。グラウプナーよりも相当丈夫です。

さて、今回はかなり大きく壊れてしまったネメシス、これまでのテスト結果を踏まえ、皆さんのアドバイスも得て修理と改修をすることにしました。

1、主翼の修理・改造

あっさりと根元で折れてしまった主翼、これはやはり主翼中央部に補強が入っていなかったことが主原因と考えられます。
主翼上下面に貼ってあったカーボンテープを除去し、カーボンの薄板を全スパンに渡って縦に埋め込むことにしました。これで左右の主翼が一体化して強度が増すとともに、翼断面成型のため大量に塗っていたパテを削り落として軽量化が図れます。
翼端の捻り下げは失速防止に効果があるのですが、今回はあえて付けませんでした。
その代わり、比較的内側のみにあるエルロンを若干下げ、翼中央部の揚力を稼ぐようにします。これで相対的に翼端部の迎角が下がり、翼端失速防止効果が期待できます。

2、リンケージの見直し

舵の効きですがまだまだ敏感です。エルロン・エレベーターともサーボホーンを更に小さいものと付け替え、ATVももう少し下げてやります。
また、エレベーター・ホーンには若干のガタがありましたので修正しました。

3、機体の軽量化

グラウプナー標準、無塗装での重量は96gと報告されています。
本機の150gはいかにも重い。少しでも軽快な飛行性能を得るために可能な範囲の軽量化を図ることとしました。

軽量化は主に搭載品で行ないます。まず、最重量物のバッテリー、これを小型高出力のものに置き換えるため、ThunderPowerの2cell480mAH(12c)を選択しました。多少出力を押さえて使うにしてもこれ以下の容量のものは危険です。これで-12g。
ブラシレスのスピコンは最低8Aは流せるものを使いたいのですが、あまり小型軽量で良いものはありません。C社のはあまり使いたくないし・・・・結局、現在のTamazoをそのまま使うことにしました。スイッチを除去、コードも極力カットします。これで-3g。
受信機はR500ですが、エレベーターにノイズが入った可能性が否定できません。(前回、スピットファイヤも同一症状で落ちています)そこで手持ちのGWS4ch受信機に交換。これで-5g
合計-20g たった20g?でも総重量150gそこそこの本機にとっては1割以上の軽量化です。

4、重心の見直し

本機の重心は塗装がちょっと厚塗りになった結果、許容範囲後方限界の、前縁から35mm位置にありました。これはエレベーターが敏感な要因となりますので、前方限界に近い位置、30mm位置になるようにします。
しかし、バッテリーの軽量化を図った結果、重心は更に後方に移動してしまいました。そこで、アンプをモーターすぐ後方に、受信機をサーボの前方まで移動させ、適正な重心位置に設定することが出来ました。

ここで、NMFCちびプレーンの大家、シゲちゃんから連絡あり、氏のネメシスの初飛行を行うとのこと。私もこれに同行するため急いで仕上げを行うこととしました。
主翼の修理・改造跡を塗装し、全備重量は130gとなりました。

「ちびプレーン ベテランとの競演」

4月10日(日)いよいよ運命?の日です。
早朝から集合したNMFC飛行場は曇天無風、絶好のテスト飛行日和です。

飛行前、お互いの機体の出来、セッティング等を確認しあいます。
シゲちゃん(右)、無塗装130g、E-Tec 7.4V 700mAH、GWS 4×4、16000rpm@7A
CIVIL(左)、厚化粧133g、Thunder Power 7.4V 480mAH、APC 4.1×4.1、14000rpm@4.8A(ATVで調整)
舵角、捻れ等の問題がないことを確認していよいよフライトGO!

まずはシゲちゃん機、あっさり飛びました。主翼捻り下げ効果が出ているのか、非常に安定した飛びっぷりです。スピードもかなり速く「かっ飛び」約6分の飛行後、機体を壊さないようにと準備した霞網に向かって進入。しかし、目前で痛恨の打ちミス、機体は網右手前の地面に激突、脚を破損してしまいました。

続いて3回目の挑戦となるCIVIL機です。
こちらは前回手投げに成功しているので比較的気楽でした。しかし、今回エルロンのニュートラル位置を変えているのでかなり機首下げ癖がありました。エレベータースティックを半分ほども引いていないと水平飛行が出来ません。降ろしてから確認すると後縁で1mm程もUPになっていました。エルロンは鈍すぎてその分機体はバカ安定、これもあとでATVを元に戻しました。

4分ほどに飛行後に着陸。やはり失速は速く、不安定になり右翼から接地して転がってしまいました。しかし、補強した主翼は壊れることもなく無事回収。飛行成功です!

注:上の画像をクリックするとフライトのビデオが見られます。(WMV形式:約1分、2.2MB)

 

「総括」

今回の一連の製作、飛行を通じて・・・・

かなり苦労して飛行に成功したようですが、最終的に飛んだ機体を見ると、どこにも特別な部分はありませんでした。
機体は捻れなく真っ直ぐに、リンケージはガタなく渋くなく直線に、機体は軽く、重心位置は適切に、パワーに応じたサイドスラスト、ラダーオフセット、メカは信頼性を確認して・・・・どれも基本中の基本です。
小さいからといって、いや、小さいからこそ悪影響を及ぼすこれらの要素は十分確認し「まともな機体」を作りましょう。

ハイパワーのちびプレーン・レーサーを手投げする場合、若干の留意事項があります。
水平より僅か上方に向け、真っ直ぐ押し出すように投げるのは勿論ですが、手投げ直後は速度がなく、トルクの影響でかなり左に取られる傾向があります。これを予期して(構えて)おくかどうかで手投げの成功率も違うでしょう。
自分で投げる場合、投げる瞬間はエルロンの操作が出来ないと思います。
その場合、ラダーからエルロンへプログラムミキシングをかけておくことで(取り敢えず)機体が安定するまでのコントロールをすることができます。

基本に忠実に、若干のコツをつかめばちびプレーンも恐れることはありません。
皆さんもこのマイクロネメシスでパイロンレースに挑戦してみませんか?

本ページの画像は、IXY Digital50 と、Vodafone 携帯電話 SH-010 で撮影し、
VIX Ver.2.11 で加工し、作成しました。  


  
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