「うう…。」
オレは闇の中に居た、体が動かない…。どうやら手足を完全に固定されているようだ。
墓参りの後、そこに佐藤が建っていた、そして奴の眼を見た後の記憶が全くない…。"いったいあの後何が起こったんだ?"
身体のどこにも痛みは無かった。
"そうだ、彼女はどうなったんだ?"
その時扉が開き、部屋の明かりが点けられた。
まるで子供の頃見た敵の秘密基地に捕らわれたTVのヒーローのようなもんだった、ただ絶対的に違う事は、オレは普通の人間で、変身する事などできなくて、確実な死がこの先に待っていると言う事だった。
成田が彼女を抱きかかえた佐藤を従えて入ってきた。"よかった、彼女は傷つけられていない"
外見上傷つけられていなくとも、そんな事は意味をなさない、なのにオレは少し安心した。
彼女は眠らされているようだった。佐藤は彼女を椅子に座らせると両手両足をイスに固定した。「会美を起こしなさい。」
成田が佐藤に言いつける、すると彼女は佐藤が全く触れてもいないのに、ゆっくりと目を開けた。
「だいじょうぶかい?」
オレは彼女に声をかける。
「ごめんなさい…。」
彼女は捕らわれてからずいぶんと泣いたようだった、そしてまた涙を流した。
「君はなにも悪くない。」
オレはできる限りの優しい口調で彼女に向って行った。
「素晴らしい!!すごくいい感じですよ、これは楽しみだ。」
成田の顔に満面の笑みが浮ぶ。
「この悪魔!!」
吐き捨てるように彼女は成田に罵声を浴びせる。
成田は彼女の言葉を目を閉じたまま受け止め、オレの方を向いて、「ほう…会美もよっぽどあなたの事が気に入ったように見えますなぁ、かわいそうに…。」
そして彼女の方に振り返り、
「会美、今夜はたっぷりとお前の心を味あわせておくれよ。」
成田は佐藤に目配せして言った、
「さあ!始めましょう!」
「グハァッ!!」
腕に激痛が走る佐藤の持ったトンファーが腕に決まった、鈍い音と共に腕はあらぬ方向に折れ曲がる、見事に折られていた。
「ギャァァ!…。」
彼女が叫ぶ、オレの痛みがそれほど伝わっているのか?でもこの痛みだけはどうしようもなかった、どんなに我慢しても反射的に"痛い"という感覚は生まれる。
オレにできる事はこの痛みのたどり着く先、詰まり"死"を意識したりしない事だった。「う〜ん、とてもいいぞぉ…会美…辛いだろう、お前の大切な人が痛め付けられて、
その痛みがお前に入ってくる…。」成田の声が猫撫で声になる。
痛みが少々収まりかけた、が、その時"ミリミリ!!"あまりの事に気を失いかけた。
つめを剥がされたのだ!打撲とは違った痛みがオレを襲う!「ガハッ!」
まるで指先に心臓があるかのように脈に同期して痛みが走る。
「うぅぅ!!」
彼女が呻き声を上げる、たまらなかった、彼女はオレのこの痛みを感じ、そして同時に自分を責めているのだ。
「ミリッ!!」
もう一つ剥がされる、痛みから、オレの意識がフッと遠のきそうになる。
しかし、そんな事、成田は許さなかった。
"ジュウ!!"肉の焼ける匂いとかすかに白い煙が上がる、「グワァァ!!」
今度は焼けた鉄の棒をオレの足に押し付けたのだった、とんでもない熱さ、そしてその後から来る痛みそれが全て彼女に伝わる。
「やめて!!おねがいだから!やるなら私にして!!」
彼女は泣きじゃくりながら成田に懇願する。
「無理を言ってはいけないよ、会美、お前のその素晴らしい身体を傷つけるなんて、
そんな事、私にはできない、それはダメだよ。」まるでダダッ子を諭すような口調で、優しく、そして残酷に成田は言った。
また一ヶ所、別の所に焼鏝が当てられる"ジュウ!"オレは歯を食いしばり痛みをこらえる、
しかしながら声に出さないだけで、この痛みと苦しみは確実に彼女の心を突き刺す。
彼女ももう耐えられない、「お願い、私を殺して…」
「アフン、いいぞぉ会美、素晴らしいぞお前のその感じ方、あぁ、ほんとうに最高だぁ…」成田は興奮の絶頂に達しようとしている。
始まってからどのくらいの時間が経ち、オレ自身の身体がどの位痛め付けられたのかも分からなくなって来ていた、
身体の痛み、感覚をオレの脳が拒絶しだしていた。
彼女もまいっってしまったのか、首をうなだれている。
その時手首に何かひんやりとした物があてがわれた。
そして腕を伝って何か暖かい物が流れ落ちてくる…オレの血だった、いよいよオレもお終いだ。
オレの心の中についに死の予感が生まれた、この感覚は一番彼女が感じたくなかったものだった。「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
息の続く限りの叫び声、オレの意識はこの声を聞きながらも、だんだんと薄れて行く。
"まずいなぁ、このままじゃ彼女、壊れちまう…。"
そう思ったとき彼女の叫び声が止まった。と同時に成田の叫び声が聞こえた、
「どうしたのだ!!会美!!お前の心が見えないぞ!!会美!!」
オレに聞こえた"音"はこれが最後だった。
続く